スーパーなどでよく見かける大量生産型の野菜の影に、古くより親しまれた地元由来の野菜があります。その1つが山形野菜。在来かぶだけでも40種も栽培されており、注目を集めています。
山形県の農業
山形県は全国第12位の耕地面積を持つ自然豊かな土地です。雪が多く降る地域でもあり四季の変化が、米、さくらんぼ、ラ・フランス、畜産などを生んでいます。
山形県のお米は、ブランド米「つや姫」や安定した品質・生産が可能な「はえぬき」が有名。豊富な水と土壌を持つ庄内平野を中心に栽培されています。
また、さくらんぼは佐藤錦や紅秀峰、紅てまりなどが有名ですね。山形県のさくらんぼは、全国の生産量の75%。夏は暑く、梅雨は雨が少なく、風が強くない気候がさくらんぼの栽培に適しているのです。
ラ・フランスは生育期間が長く、手間がかかる果物。山形県では新品種「メロウリッチ」やオリジナル品種「バラード」が栽培され、全国シェアの約6割を占めています。
そんな食物の産地として恵まれた環境を持つ山形県は、庄内、最上、村山、置賜の4つの地域に大別されます。それぞれの地域で特有の在来野菜が栽培されているので、ご紹介しましょう。
庄内地域
温海かぶ(あつみかぶ)
鶴岡市温海地区の在来種で濃紫色で丸いかぶです。切ると内部は白く、やや硬く、甘いのが特徴。伝統的な山の傾斜を利用した焼畑農法をいまなお継続しています。旬は10月〜12月頃。酢の物にしていただきます。
だだちゃ豆
鶴岡市白山地域で7月から9月に収穫される枝豆。茶色いさやのなかに2粒入っているのが一般的で、甘みと香りが強い品種です。「だだちゃ」というのは、「一家の主、お父さん」という意味の方言。
民田なす(みんでんなす)
鶴岡市民田地区の在来種。旬は6月下旬から10月上旬です。八幡神社を造る際、京の宮大工が種を持ち込んだのが始まりとされています。卵型の小なす果肉の締りがいいのが特徴。歯ごたえがあり、浅漬けやからし漬けなどの漬物として食べられます。
あさつき
しゃきしゃきとした食感と香り、辛味に特徴がある伝統野菜。ネギに似た形をしています。12月下旬から4月中旬頃の冬の期間に、酢味噌和えやおひたしとして食べられています。あさつきには風邪予防や疲労回復に効果があるとされ、健康志向の消費者にニーズが広がっています。
平田赤ねぎ
江戸時代から栽培されている酒田市平田区の在来種。まっすぐ伸びる赤ねぎです。生のまま食べると辛味が強いものの、煮るととろっとし甘くなります。薬味として食べたり、焼きネギや鍋物に入れてもいいでしょう。
小真木大根(こまぎだいこん)
鶴岡市小真木地区の在来種。直径5cmほどの小ぶりな大根で辛味が強いのが特徴。主にハリハリ漬けの原料として利用されています。ハリハリ漬けは大根に穴を開け、藁を通し天日干ししたものを刻んで酢と醤油につけたもの。
最上地域
最上赤にんにく
外皮が赤紫色のにんにく。大粒で芽が出にくいという特徴があります。生で食べると辛味が強いものの、焼くとほくほくと甘みが出ます。擦って味噌と合わせたものをごぼうに和えた「にんにくごんほ」や揚げたり、焼いたりしても美味しいにんにくです。
肘折かぶ(ひじおりかぶ)
大根に似た形状で全体的に赤いかぶ。固くてパリパリした食感が特徴です。肘折温泉に出荷されることからこの名がつきました。肉質が固く長期保存できる品種です。
神代豆(じんだいまめ)
鮭川村楢山地区で栽培されていた「アオバコ豆」の原種を改良してできた枝豆。もともとは「なっしょ(苗代)豆」として栽培されていました。大粒で芳醇な香りが特徴です。9月下旬から10月中旬に収穫され、その他の季節は冷凍加工品として流通します。
漆野いんげん(うるしのいんげん)
昭和14年に村山地方から来た炭の検査官が種を荒木家に寄贈したとされる漆野いんげんは、つるがなく、さやごと食べられるのが特徴。若さやで食べても柔らかく、さやごと乾燥させたものを戻して食べてもおいしい。
村山地域
山形赤根ほうれん草
山形市風間地区の在来種でその名の通り、根や葉の付け根が赤いほうれん草。柔らかくてあくがなく、メロン並みの糖度があるのが特徴です。11月の下旬から2月にかけて寒い時期に栽培されます。
悪戸いも(あくといも)
山形市悪戸地区で栽培されているさといも。粘りが強く、煮崩れしないのが特徴です。栽培時期は10月中旬から12月上旬と、一般的なさといもより遅くなっています。
蔵王かぼちゃ(ざおうかぼちゃ)
山形師蔵王地区で栽培される果皮色が灰白青色のかぼちゃ。へその部分が10cmほどと大きく、包丁では切れないほど硬く、「マサカリかぼちゃ」とも呼ばれました。長期間保存しても風味が落ちないかぼちゃです。
山形青菜(やまがたせいさい)
村山地区、置賜地区で栽培される高菜の一種。柔らかい食感に独特の辛味があり、青菜漬けやおみ漬けなどに利用されます。明治時代に奈良から種子を導入し、栽培が始まりました。
置賜地域
おかひじき
山形県南陽市が発祥とされるおかひじきは、海岸に自生する一年草。3月下旬〜11月中旬頃に収穫されます。海藻のひじきと形が似ているためこの名がつきました。おひたしなどにして食べると良いでしょう。
紅大豆
川西町で生産される紅大豆はイソフラボンやGABA、オルニチンなどが含まれており、栄養価の高さが注目の的。甘い豆なので、煮豆やお菓子などにして食べます。白豆に対して70%程度の収穫率のため、本格的に栽培している土地がありませんでした。
薄皮なす
新潟から種子を仕入れたのをきっかけとし、南陽市で栽培が始まりました。かつては「沖田なす」とも呼ばれましたが、皮が薄く柔らかい様から「薄皮なす」と呼ばれるようになったそうです。一夜漬けが定番。
雪菜
一度収穫し、稲わらと土をかけた状態で降雪を待ち、伸びた「とう」を食べるという珍しい野菜。軽く湯通ししてつける「ふすべ漬け」にすると辛味が出ておいしい。
山形の伝統野菜を紹介してきました。他県ではなかなか手に入れづらいものもありますが、ぜひ一度味わってみてくださいね。